信楽採酒使

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ヒトミワイナリー - 岸本邦臣&石本隼也

 今回の一時帰国、私たちはほとんど地方で過ごすことになった。丸一日東京にいたのは、買い物で初めて豊洲市場を訪れた2月28日だけ。それにしても豊洲はなんと味気のないところか。築地という日本の文化が、また一つ葬り去られた。この事実は否めまい。何故、時の流れを止めずに、変わらぬ夢を流れに求めないのか。残念というよりも、悔しい。

 反面、3月2日に訪れたヒトミワイナリーでは、そんな夢を見させてもらった気がする。信楽焼でのワイン造り、信楽茶壺仕込み、なかなか妙味な話だ。すでに十年も前からやっていると言う。それどころか、発掘された1200年前の焼き物の破片に葡萄がこびりついていたという、なんとも想像を掻き立ててくれる話もある。ああ、知らなかったのは私たちだけ。世界のVoyage en Amphoreを掲げるには、まだまだ役不足のようだ。

 ネット検索で、茶壺仕込みとして、Sindo Funi TsuBo 2014が出てくる。Sindo Funi「身土不二」とは、「地のもの食べると長生きできる」という意味らしい。データを見ると、滋賀県産マスカットベリーA 100%使用、天然酵母での自然発酵でアルコール10度と、いかにも飲み易そうなワインだ。ちなみに2018年の茶壺仕込みは、白がデラウェア+ソービニョン ブラン、赤がシラー+カベルネ フラン。ボトル詰め間もないが、口当たりよくいける。

 ヒトミワイナリーでは、元々にごりワインを謳い文句に商品化しているが、日頃澱満杯のワインを飲み慣れている私たちにとってはむしろ綺麗なワインであり、これに疑義を呈する輩がいるなら、その心中が図りかねる。個人的には願わくば、全房でもっと長期浸漬の、或いは日本固有の山葡萄で、いわば縄文風茶壺仕込みに挑戦してみてもらいたい気がする。