Cyril Fhal – Clos du Rouge Gorge
世の中には一度聞いただけで忘れられない、そして気になって仕方のない名がある。Clos du Rouge Gorgeもその一つだった。そしてシリル ファルの名も。理由は分からない。でも初めてこの名を耳にした時から、すぐにでも行きたいという衝動に駆られた。そして約束の日、ピレネー山脈の麓に位置するラトゥール ドゥ フランスは、ゆうに風速30メートル/秒(時速120km)を越えるTramontana(トゥラモンターナ=北北西の強風)に見舞われていた。
本当に吹けば飛ばされるような(実際に軽く跳ねたら着地位置がずれていたし、また撮影中にカメラを持ったまま押し倒されもした)風の中、L’Ubacの丘の中腹で、シリルは明るく笑いながら鍬を振り下ろし、そして言った。「初めて自分の葡萄畑を手に入れた時、嬉しくて嬉しくてさ。それで住む家がすぐに見つからなかったもので、4ヶ月間、畑の中の物置小屋で寝泊まりしてしまったよ、ハハハハハ。」
葡萄栽培農家の出ではない一人の若者で、自らの畑をこれほど愛している者はなかなかいない。「広くなりすぎたら葡萄作りを楽しめなくなるだろう、フフフ」と、相手の目を見つめながら軽く言い流すシリル。そんな彼が、自らが情熱を傾けヒポトピアを目指すご自慢の畑の中を歩く姿を目にした時、Closの中が一斉に生き生きと輝いて見えたのは、単なる目の錯覚だったのだろうか。
Triple Aの撮影を始めて以来、シリルは、イタリアはシチリアのアリアッナ オッキピンティと並ぶ、フランスで一番の出世頭だと私は思う。そんな彼が、こともあろうに、近年Hors Champsというネゴシアンを立ち上げた。雹害にあった経験からで、仕方のないことかもしれない。が、個人的には、ちょっと残念に思う。シリルの二酸化硫黄に対する考え方同様に。