君(奴)の名は…

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 えっ、あったって何が?

 すると「ほら、これ」と、ケイコがニコニコ顔でワイン・リストの1ページ目を指差している。そこには、

 Montrachet 1984 DRC の名が…。

 素直に言って、その時、モンラッシェが何であるかすら知らなかった。ただその値段を見て仰天した。えっ、昨夜のシャンパン2本分よりも高いの…(当時2500フラン=約5万円。でも以後他のレストランで見かけたDRCのどのモンラッシェよりも安かった)。

 うーん、あまり気乗りがしませんけど…。えーっ、どうしてもこれだって言うの?うーん、確かにこの旅はケイコのために組んだけど、でもやっぱり高いよ。えーっ、うーん、あぁ、どうしよう…。どうしよう…。

 で、結局頼むことに。あーあ、知らない。どうにでもなれ。ただ今更ながら、あの時にあんなものを飲まなければ…、です。良しにつけ悪しにつけ、あまりにも強烈な、人生の変わり目となる出逢いだっtた。

 もっとも、この時に全てが始まったわけではない。既に一つの流れの渦の中にいて、なるべくしてなったこと。だって、そうでしょう。そうでなければ、何故、ケイコがモンラッシェの、DRCの名を知っているの?当然、そこにつながる事件が、その前に起きていた。それは、更に一年前のこと。スペインから移り住み一年半が経つのにフランスに馴染まないケイコの誕生日に、イタリアへ美味しいものを食べに行った時のことだった。