Pepe Rodriguez – Adegas Galegas
私にはアンダルシアの良い思い出があまりない。でも、スペインは嫌いじゃない。以前はイタリアが好きで憧れていたけれど、意外と義(義理ではない)に欠ける彼らの側面を知り、俄然スペインの方がよくなった。エミリオ的時間の感覚で生きられたら、もう最高だろう。もっとも、スペインにも「時間がない」人はいた。エミリオのいるリベイロからほど近い、リアス バイシャスのアデーガス ガレーガス当主、ペペ ロドリゲスだ。
その日ぺぺは、十二時の飛行機に乗ることになっていた。ただ、前日の約束に私たちが来られなかったので、わざわざ蔵に顔を出し、待っていてくれたのだ。ギャングのボスか、帽子を目深にかぶり見つめるペペに、撮影の準備をする手が焦った。時間が「あまり」ではなく「全く」ない。部屋の中に緊張が走る。
ファインダーを覗くと、怖い、と言うか、硬い。どうしよう。とりあえず「好きなこと」でも尋ねてみよう。するとペペが「写真だ」と言う。一瞬ギクッ、と逆にこちらが凍りつきそうになるが、「でも時間がない」と言われ、ホッ。いや、時間がないことを思い出す。そこへペペが、今度は「政治も好きだ」の連打。しかし再び「旅が多くて、時間がない。」
旅か。それじゃ、「旅グルメはどう」と尋ねると、彼の顔にポッと赤みがさした。そして水を得た魚のように、表情がみるみる緩むと、「そりゃ、勿論さ」そして、それまでのかしこまった髭面に万遍の笑みが込み上げて、
「八つ目ウナギの料理をご存知か。うなぎの稚魚じゃない。こんなに太いやつ、ここの名物なんだ。次回はそれを御馳走するから、一緒に食べよう。是非、また来てくれ。」
と、まるで魔術師を前にした子供のように目を輝かせながら、ことのほか上機嫌で言った。
見事、「食い気」が「飲み気」を制すなり。どうやらこの頃から既に私は、「食い気」の道へ舵を切り始めていたようだ。「たかがワイン」さ。「されどワイン」だなんて、ちゃんちゃら可笑しい。そもそも、食を正さず自然派ワインなど、全くのお笑い種でしょう。