スター

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Álvaro Palacios – Álvaro Palacios S.L.

 スペインには、他の誰より会ってみたい人がいた。ただその人を、みんなが「スターだ」と言っていた。ミイハア嫌いの私は一人、「どうしよう」と迷っていた。その時だ。「痛い!」と、思わず手を引っ込めた。見ると、右手首の上で蜂がもだえている。なんとトルトッサのパラドール(ホテル)で、朝食中に、蜂に刺されたのだ。とっさに払うが、痛い。その強烈な痛みで完全に目が覚さめた。これからアルヴァロに会いに行くんだ。

 車でグラタリョプスの村に近づくと、「あれだ」と私には分かった。左手の小高い丘の上に立つ近代的な建物、あれがアルヴァロのボデーガに違いない。その予想は的中した。ただ私たちは、何故か裏口に車を停めてしまった。すると、ガラス張りの建物の中を、一人の男が慌てて走って来る。その走り樣がまるで「ルパン三世みたい」に私の目に映った。それがなんと、アルヴァロ自身だった。彼は満面の笑みで、私達を迎え入れてくれた。

 事務所に入ると、片隅にカポーテ(闘牛用ケープ)がおいてあった。アルヴァロは無類の闘牛愛好家だ。観るだけではなく、自らもアレーナ(闘牛場)に立つ。おまけにフラメンコ・ギターを弾き、声を枯らしてカンテ・フォンド(フラメンコの歌の一種)を歌う。そこには誰も真似のできない彼の美の世界がある。究極の美を求める男の生き方がある。そんなアルヴァロがグラスを手に、

「なにかもっともっと精神的なもの、神に近づくものを目指したいんだ。」

と、言った。その時、確かにグラスの中で何かが起こっていた。大宇宙にも似た渦巻きだ。そして自らの意志でビッグ・バンを起こすかのように、その大きな波動を宙に突き上げながら、エルミータの神童がまた口を開いた。

「今までになく、自分がヴィニェロン(葡萄栽培醸造家)だと強く感じる。」

 彼が世に送り出すワインには異を唱えたいものもある。でも人間として、この日以来、この誇り高き男は私を魅了して止まない。