星の王子さま

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ディディエ自身が自慢した私が撮った世界一の彼の写真です。

 

 トゥトゥンとくれば、ディディエ(ダグノー)のことを思い出す。二人は無二の親友で、いつも一緒に楽しい時間を過ごさせてくれた。

 私たちがディディエを初めて「観た」のは、犬ぞり競技のテレビ中継だった。ただその時は、競技に参加している彼が誰なのか知る由もなく、ただ長髪で髭むじゃらな顔が印象に残っていた。後日、ワイン雑誌で彼の写真を目にし、「あっ、この前テレビに出てた人」と、初めてヴィニェロンであることを知った。

 約束の日にディディエを訪ねると、何故か樽業者との超真面目な試飲中。お付き合いしてみるが、難しすぎてついていけない。おまけに長引きそうなので、翌日もう一度出直すことにした。次の日、目の前に大きく広がる平野を見下ろす高台で、トラクターから降りたったディディエが言った。

「昨日はご免な。写真はポーズは取らないから勝手に撮ってくれ。じゃ、畑に行こうか。」

 そのまま彼の車で畑へ向う途中、私はたわいのないことを尋ねてみたくなった。

「どうしてASTEROIDEのラベルは星の王子様なの。私が一番好きな物語なんだけど。」

 すると、ハンドルを握るディディエの顔に一条の光明が差し、微笑みながら言った。

「あの時、ちょうど読んでいたんだ。」

 長髪と髭の合間から優しく輝く目が覗く。初めての笑みだった。そしてフラン・ピエの畑に着くと、おそらく今まで他の人には言ったことのない、思いもかけぬことを口にした。

「レオン、一緒に写真を撮ろうや。」

 一瞬の出来事だった。一秒たりとも待たせられない。露出を測る暇もなく、無我夢中でシャッターを切っていた。ディディエが息子を抱き上げていたのは、ほんの十五秒位のこと。それが永遠の間のように思えた。

 私はいつも、ディディエこそが星の王子様だったと思う。そしてこの写真を観る時、あの日私たちはASTEROIDE B612にいたんだ、って。絶対に。

 でもディディえはある日突然、私たちの前からいなくなってしまった。名残惜しいに決まっている。あんな形(ULMの事故)で消えちゃうなんて…。ただ、もしかしたらそれが最も彼らしかったのかも…、と思う。

 でも死んだのはディディエだけじゃない。シャンベルタン、いや、シャンボール・ミュジニの貴公子ドゥニ(モルテ)も逝ってしまったし。今日までに何人が亡くなっただろう。