これがモンラッシェ!

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 1999年11月。オスピス ドゥ ボーンヌを木曜に控えた第三週のブルゴーニュは、寒波に見舞われていた。私たちの写真展「ル モンラッシェ」の初日は大雪となり、会場のシャトー ドゥ ピュリニー・モンラッシェは、辺り一面真っ白な雪で覆われた。おまけに寒い。しかし会場には、襟をすくめ白い息を吐きながら、地元の人達が大勢集まって来た。そこでシャトーの主(社長)クロードゥ シュネイデール氏が開会を宣言する。

「ピュリニーとシャサーニュの人達が、これほど一同に会したことは今までにない。歴史的なことだ。ケイコとマイカに感謝したい。それでは皆さん、試飲会場へどうぞ。」

 拍手が渦巻く中、皆が続々と隣室に移って行く。そして各生産者のモンラッシェを端から順に試飲…、とはいかなかった。皆、お目当てのボトルの前に直行し、一斉にグラスを突き出す。しかし、20X2本程のモンラッシェで150人ともなると、誰だって足りるとは思わない。会場は押し合いへし合いの大騒ぎとなった。そんな中、ギ アミオが叫んだ。

「凄い。これだけのモンラッシェが一同に会するなんて、夢のようだ。世紀の試飲会だ。」

 私たちは、そんな周囲の騒ぎを他所に、たった一本置かれたボトルの前に立っていた。すでに中身は殆ど残っていない。そのボトルを静かに持ち上げ、最後の雫をグラスに注ぐ。「うちには取り置きがあまりないので、これしか出せない」とジャン・マルク ブランがくれたボトルだ。それを徐に口にし、私は目を見開た。そして、ケイコを探した。予想だにしなかった、吹き出すようにこみ上げてくる感動を、早く伝えたい。一方、ケイコも同じ衝動で、私たちは互いに振り返り鉢合わせするような格好で、顔を見合わせた。

 あまりにも衝撃的。ただただ繊細で、微細で、優しく、優雅に振る舞うモンラッシェに心底驚嘆、感動した。「真の王は己の力を見せびらかす必要などない。寛大な懐の深さで接するもの」と教えられた気がして、頭が下がった。ああ、これこそがSEIGNEUR(セィニュー=領主様)。それが分かったことに感謝した。そのモンラッシェは、

 ドゥラグランジュ・バシュレ 1988年

 正に二年前、ラムロワーズでドゥプレさんが出してくれたモンラッシェと同じ造り手。あれから二年、雲谷をさまよい、山頂付近でいきなり霧が晴れ、一気に360度、見て取れた気がした。これがモンラッシェなんだ。